第52章 original~空座町怪死事件篇~
「置いてきたってことは、動けないんだよね。怪我してるんじゃない?今はなにも出来ないけれど様子を見に行きたい。包帯とかあるのなら手当してからでも遅くないでしょ。幸い、片桐は私たちを殺そうとしなかった。今も襲ってくる気配は無い。焦ることはないと思う。」
喜助さんは長考した後に、口を開いた。
「301号室に行くなら、アタシは全力で止めます。」
喜助さんの返答に不信が募る。
「何を見たの?」
そう言うと彼は声のトーンを落とし、『死体』と答えた。
「死体……?」
「ええ。頭部の無い死体っス。いや、厳密には頭だったものが部屋中に散乱してましたけど……。」
「そ、そんな……」
「ええ。」
静寂を裂いたのは建石サンの叫び声だった。
喜助さんの制止を聞かず、振り返って戻った。
暗がりの中、頭を抱えてのたうち回る彼の傍に座り、声をかける。
「建石さん、建石さん、」
そう叫ぶと、彼は私の腕を力強く握った。そして、そのまま私に何かを伝えようとぱくぱくと口を開ける。
読み取るために近付いた。
「アリ?」
小刻みに震えていた彼の体がピタリと動かなくなった。それはほんの一瞬のことで、次に聞いたのはメキメキといった鈍い音。
直後、喜助さんが私を後方に抱き寄せた。力のまま、喜助さんにもたれかかる。
闇に浮き上がった充血しきり、血の涙を流した彼の目を凝視していた。
故に、彼の頭蓋骨が音を立てたのが聞こえ、顔の骨が崩れ落ち、額や頬、鼻が皮膚にだらんと垂れ下がり、不自然に頭頂部が膨れ上がっていったのがしっかりと見てとれた。頭頂部が皮膚を突き破るのと同時に、彼の顔は―木端微塵となり、私の服、床や壁に飛び散った。
一瞬のことのはずなのに、スローモーションだった。
あまりのことに脳が追いつかず"さっきまであった頭"から目を離すことができなかった。
身体が硬直して動かない、息をしているのかもわからない。
突然、目を覆われた。
「……」
身体の硬直故なのか、私は目を開けたまま手のひらの向こうを見据えた。