第38章 過去編~鍵~
喜助さんの張った断空は私が張るものよりも精密で、大きく、雷吼炮を完全に遮断した。
砂ぼこりが雨によって収まる。
その頃には死神の姿は見えなかった。
「逃げられたか。」
そう言うと喜助さんは雨でぐっしょり濡れた前髪を分けるように私の額を撫でた。
「まだ犯人がいるかもしれないのに、貴方を一人にしてしまった。僕のせいだ。」
「大 丈 、夫。」
夏だというのにとても寒い、体の芯から冷え、凍えまいと身体が震える。
私の身体の変化は、抱いている喜助さんも感じたらしい。
私の手首を手に取った。
「身体が冷たい。脈も浅い……。……霊力も、」
自分の体温が下がっていくのを感じる。喜助さんの身体はあったかい。
「とにかく、雨宿りできる場所へ」
そう言って私を抱き抱えようとした。
喜助さんの胸元を押した。
「行ってください、」
「え?」
「喜助さんなら、追いつきますよね。……早く、逃げられてしまいます……」
「しかし、ポインティが」
「待ってますから、ここで……"隊長"さん」
そう言って強く胸を押した。
喜助さんは唇を噛み締めた。
自分の着ていた隊長羽織を私にかける。
「これは……」
こんな大事なものを、渡されてしまうなんて。
「すぐに戻ります。必ず。」
喜助さんは私の手をしっかり握った。
「隊長羽織、預かっておきますね。」
そう言って少し口角を上げた。
喜助さんの手が離れる。
「縛道の七十三【倒山晶】」
喜助さんが結界を張ってくれた。
「いってきます。」
喜助さんは瞬歩で移動した。
「いってらっしゃい」
その言葉は雷の音にかき消された。