第32章 過去編 ~序~
「夜一さんにとっては不要なんでしょうが、こんなにいいものをたくさん頂いてしまっていいのでしょうか。」
「姫様のお心配りでございます。使っていただける方にお譲りしたいとのこと。同居人が増えて、足らぬこともありましたでしょうから、これで少しは過ごしやすくなるかと存じます。」
家具や食器が揃えられ、箪笥には質のいい衣類、ふかふかの布団などが揃えられた。
「弟君か妹君かが生まれるとのことで、僕たちなりにお返しをさせてください。」
「姫様も旦那様も奥方様も、これからも姫様の良き友人であることを望まれています。何卒よろしくお願い申し上げます。」
なぜ、夜一さんはこんなにも私たちに、喜助兄によくするんだろう。
「夜一さんって、喜助兄のこと、好きなのかな?」
「ポインティ!?」
「まぁ!」
夜一さん側の従者たちは笑っていた。
「好いておりますとも。喜助さんのことも、ポインティちゃんのことも。だからこれからも仲良くしてくださいね。」
生きていた頃を思い出した。
同年代の友達と呼べるような者はいない。
寂しかった。
幼いながらに夢を持つこともなかった。
家のための道具として、嫁に出されることを知っていたからだ。
それについて絶望さえもなかった。
教養や品格を身につけるための教育は施され、それと同時に家の繁栄のためにという言葉も教え込まれていた。
私はその教えを真摯に受け止めて、務めようとした。その姿勢は周囲から高い評価を得ていた。
今ならわかる。
父や母からの娘に対する愛はあったと思う。
しかし、私自身を必要とされている感覚はなかったかもしれない。
ここの人たちは私を必要としてくれている。それに気がついた。
私も生きていた頃に、私を必要としてくれる人がいたなら、友と呼べる人がいたなら。
……そんな人がいたなら、悲しませるだけか。
生きていた頃の記憶は段々薄れていく。今に塗り替えられるからだ。
私は死後の世界でどうやって生きていこう。
少しでもいい、救ってくれた喜助兄や、支援してくれている夜一さんに恩返しができるように生きていきたい。