第65章 千年血戦篇
死線をくぐり抜けた回数が少ない。
藍染が侵攻したとき、私は前線にはいなかった。
現世での任務もこなしたけれど、今までは『負けない自信』があった。
しかし、滅却師の圧倒的な力を見せつけられてしまうとどうしても恐怖が襲ってきてしまう。
「ええんやで、逃げても。ポインティちゃんは本来、現世の人間や。せやから、その羽織脱いで帰ってもええんやで。」
「でもそれは」
「中途半端な気持ちやと、そこ突かれるで。部下に示しもつかん。」
「頭ではわかってるつもりです。」
「みんなそうや。ポインティちゃんだけやない。俺かて怖いんやで。奇襲とはいえあんなに歯が立たん奴ら相手にしたないて。」
「そう、歯が立たない……んですよ。総隊長の右腕でも。」
「でもなァ、守りたい場所や大切な人が俺の知らん間に消えてしまうかもしれん。戦う恐怖よりも、力があるのに、それを使わずに失う方が何倍も怖い。」
「滅却師を放っておいたら魂魄の均衡が崩れて、現世と尸魂界が混ざり合う。その時、私の家族や友人は無事じゃ済まない。だけど、私は守れる力がある。」
「そういうことや。」
「……でも、死んでしまったら」
「みんな死ぬんは怖い。死なんために鍛錬してんねん。喜助だって似たようなこと言うてたやん。」
死なないために備える……。確かにそうだ。
「ポインティちゃんの腹ん中に渦巻くモンは、護廷十三隊の全隊士の腹ん中にもある。当たり前のごく普通のモンや。それはなによりも力になる。ええか、死にたくない、生きたいという気持ちは、大きい力になる。その気持ち、大事にしとき。」
まぁ、考えすぎんのも良くないけどなー。
そう言って平子さんは帰っていった。
「励ましてくれたのかな」
私は恐れていた。今までの敵とは比べ物にならないくらいの強い力を持つ滅却師。
いつか隊長として覚悟していたことが起こるかもしれない。私よりも強い人が手も足も出なかった賊軍を迎撃する恐怖が私の身体を支配する。
戦いたくない、ほんとは逃げ出したい。
『隊首会お疲れ様でした。付き添えずに申し訳ありません。今のどの辺ですか。』
レンの声が手持ちの鏡から響く。
「すぐ帰るね」
この気持ちを赤裸々に言える相手がいたなら。
私の心の内を何も言わずとも認めて抱擁してくれる人がいたなら
私の不安を取り除いてくれる人がいたら
