第32章 夜もすがら 契りしことを 忘れずは
溜息に似た熱い吐息をつく。
「綺麗だ」
汗と欲で濡れた体から、震える睫毛の先まで。
想いを溶かすように耳元で囁けば、蛍の濡れた瞳が揺れた。
「ぁ…ぁ…」
きゅうっと後孔が杏寿郎のものを締め付ける。
顔だけでなく指先から足の爪先までかっと昂る熱を感じながら、とろりと小さな鈴口から更に愛液が溢れた。
明らかに男の姿をしていながら、本当にこれは男なのかと疑いたくなるほど、鏡に映る自分の姿は見たことがなかった。
どうあっても抱かれている者の顔だ。
今すぐ目を覆いたくなるような強い羞恥を感じると同時に、言い逃れのできない快感が体中に走っていく。
「君の性別がどうであろうと綺麗なことに変わりはないし、辿る先も一つだけ」
「ん、はッ」
「俺に抱かれる道だ」
蛍のその気付きを見透かすように、ゆるりと腰を揺らした杏寿郎が首筋に甘く噛み付く。
「みな、いで…ッんぁッ」
「なら俺を見ていればいい」
快楽に入り混じる羞恥心。
喘ぎ混じりに鏡から顔を逸らせば、ぐいと大きな掌に先を導かれた。
重なる唇が嬌声ごと喰らう。
「んんッふ…っん…!」
膝立ちのまま後ろから突き上げられる。
跳ねる体は逞しい腕に絡め囲われ、喘ぎも呼吸も全て噛み付くような唇に奪われた。
「んぅっあ…ッんく…!」
それでも耳に響く自身の嬌声と、結合部から届く粘着質で卑猥な水音。
触覚だけでなく、聴覚も視覚も、味覚までも犯されているような感覚に眩暈がした。
全てをどろどろに溶かしていく欲の渦の中で。