第32章 夜もすがら 契りしことを 忘れずは
気恥ずかしそうに柔く笑う。そんな杏寿郎もまた、初めての行為に浸っていたという。
それでも常に心の指針が向いているのは蛍に対してだ。
溢れる想いの中に感じる心遣いに、蛍は溜らずきゅっと下唇を噛み締めた。
胸の奥が締め付けられる。
切なさや苦しさとは違う、愛おしい感情に。
「私も…きもちよかった」
自然と零れ落ちたものは飾り気のない本音だった。
「そうか。よかった」
ほっとしたような反面、嬉しそうにも笑う。
つい先程まで感じさせていた雄のような顔を沈めて笑う杏寿郎に、蛍もつられて頬を緩めた。
「でも、勿体ないから」
「む?」
「杏寿郎が零したもの…ぜんぶ、貰っていい…?」
羞恥は混じるが、それ以上にこのひとの為の自分で在りたい。
誰に促されるでもなく、腹に飛び散っていた杏寿郎の精を指先で拭うと蛍はおずおずと舌を這わせた。
間近に見える無邪気に和らいでいた双眸が見開く。
「杏寿郎は動かないで。地面に零れ落ちちゃうから」
触れ合う肌に残る白濁とした名残りを、丁寧に掌で撫でては掬っていく。
ぴくりと僅かな肌の震えだけで応える杏寿郎は、言い付け通りに動かない。
健気にも見える杏寿郎の頬に口付けを一つ落とすと、蛍はゆっくりとその場で身を沈めた。
「っ蛍…」
「ん…っ」
目に見える精は全て口へと運ぶ。
指で掬い、時に舌で直接拭い。
やがて屈み込んだ蛍の目の前に、ゆるりと僅かに頭を擡げている逞しい陰茎が映り込んだ。
時に優しく、時に暴力的なまでの快楽を与えてくる。
見た目にも決して良いとは言えない形をしているのに、蛍にはそれが愛おしくて堪らなかった。
己の体に命を吹き込んでくれる、生(せい)そのものだ。
半勃ちしている亀頭に、白濁とした雫が滲んでいる。
今にも零れ落ちてしまいそうなそれに、蛍は赤い舌を突き出した。
「はぁ…勿体ない」
静かに、優しく、労わるように。目の前の陰茎に舌を這わせる。
雫を舌で受け止めて、そのまま飲み込むようにゆっくりと口内に亀頭を迎え入れた。