第32章 夜もすがら 契りしことを 忘れずは
浅く呼吸を繋げる蛍の頭を撫でながら、濡れたタオルが別の体液で更にふやけるのを直に掌に感じ取る。
「上手に気をやれたな。良い子だ」
視覚で確認せずともわかる。
男としての絶頂を迎えられた蛍を労わるように優しく声をかければ、髪の隙間から覗く耳が真っ赤に染まっていた。
「っ…ぅ…」
「蛍?」
「な…何、か…」
「ん?」
ふるふると小刻みに震えているのは、絶頂の余韻ではなさそうだ。
疑問を感じて覗き込むように顔を傾ければ、自身の顔を両手で覆う蛍が見えた。
「何か…出た…」
ぷしゅう、と顔から湯気が出そうな程の赤面。
加えてその口から告げられた唖然とした報告に、杏寿郎はきょとんと目を瞬いた。
「まぁ…そうだな。男の体だから射精もするだろう」
「っ!」
「そう恥ずかしがることでもない。生理現象の一つだ」
「で…でも…」
蛍にとっては、射精などという経験は人生初だ。
潮吹きとはまた違うはっきりとした精の放出は、尿意を催した時にも似ている。
まるで粗相をしてしまったような気分に陥り、ぷるぷると体は羞恥で震えた。
何より言いようもなく気持ちよかった。
それが問題なのだ。
「しかし蛍のこれは…うむ…精液とはまた違うようだな」
「っ!? な、なな…何を…っ嗅がないで!?」
「本当のことだぞ。精液独特の臭いもないし、見た目の色味も…」
「言わないでってば!」
タオルから滲んだ、蛍の放ったものを掌に乗せてまじまじと見る。
精液というよりも、透明なそれは女性の蛍から溢れる愛液に近い。
例え姿は男の体をしていても、蛍は男ではない。
故に自分とは構造が違うのだろうと杏寿郎は納得しながら頷いた。
冷静な杏寿郎に対し、激しく狼狽えているのは蛍だ。
「そんなの…っ汚い…!」
自分でも上手く把握できない体にすっかり振り回されている。
杏寿郎の手をひったくるように掴むと、ごしごしと自分の掌で汚物を拭うように何度も擦り上げた。