第20章 きみにより 思ひならひぬ 世の中の
杏寿郎に触られるから気持ちよくなってしまうのだ。
決して脳裏を掠めた忍者の入れ知恵のお陰などではない。
(天元め、次会ったら文句言ってやる…っ)
それでも憎たらしい笑顔を思い出してしまったと、心の中で詰る。
責め方の指導云々、そんな文句は言えはしないが、一発頭を叩くくらいなら罰は当たるまい。
そう決心する蛍の腰が、びくりと強張った。
「ふ、ぁ…あっ」
奥を探らんと後孔に深く入り込んでくる舌に、顎が上がる。
今一度振り返れば、見上げてくる炎のような双眸と目が合った。
力なく頸を横に振れば、じゅるりと吸われる。
「ひ、ぅ」
「…よもや俺との睦み合いの最中に考え事とは。余裕があるな、蛍」
「…ぁ…」
「同じように愛でてきた男のことでも思い出していたか?」
己の唾液で濡れた唇を、舌で舐め上げる。
目を細め薄く口角を上げているが、悋気(りんき)の気配に空気がぴりりと張り付くようだ。
威圧の中に妖艶さを混ぜ合わせた杏寿郎の姿に、見上げられているというのに見下ろされているような感覚に陥る。
ひゅくりと、思わず蛍は息を細めた。
(──あ)
同じような感覚は数時間前にもあった。
杏寿郎に組み敷かれ、後孔の経験が初めてではないと見破られた時だ。
あの時は自分の失態への焦りが勝っていたが、それだけではないことに気付いた。
ぞくりと背筋を駆ける寒気は、恐怖ではない。
どちらかと言えば背徳感に似ていた。
ぞくぞくと耳の裏や首筋に走る感覚は、奇妙だが心地良くもある。
「思い出してなんか、ないよ…そんなふうに…な…舐められた、ことなんて、一度もないから…」
薬だ玩具だなんだと使用されたことはあれど、そんなところを舐めさせるなど身の毛のよだつものでしかないと頑なに回避してきた。
許したのは杏寿郎だけだと羞恥混じりにも伝えれば、途端にぱっと妖艶さを消し去った顔が眩く笑う。
「そうか!」
「…ぅ(かわいい…)」
これが惚れた弱みなのか。
直視できないとばかりに顔を背けようとしたが、解された後孔を指の腹で撫でられ止まる。