第26章 帰郷
「おやおや、これはまたえらく中の良さそうなことだ…」
「…手前!!ッ、蝶、離れろ!!!」
穏やかだった時間は崩れる。
たった一人の人間によって。
『……何、しにきたの…柳沢』
背後に現れたその男。
敵意は中也に向けられるものしか感じられない。
「いや何、ポートマフィア内に送り込んでた奴らも使えなかったから、少し観察でもしようかとね…ただ、こちらから貴様の気配がしたから寄ってみたら、なんとまあ中原中也までいたときた」
だから少し、嫌がらせをと思って。
なんて言ってにやけるその男に、距離を取って臨戦態勢に入る。
しかし、そこで柳沢が仕掛けてきた攻撃は、私を狙ったものでも中也を狙ったものでもなく。
「…っ、手前今何を…し、…!!!」
『…、?な、…に…?』
足元の枝を、切断された。
枝先側にいた私の足元がそのまま崩れていくものの、崩れたところで私はこれくらい、着地できる。
だから、途中までは冷静だった。
『………!!っ、嘘、待って、滝…!』
殺せんせーのお手製プールの少し先。
以前にも流されたことのあるその滝に、体が吸い込まれるように落ちていく。
凍らせればいい、そしたら足場に出来る。
なのに思考が追いつかない。
突然そこに現れるそれが怖い。
水なんて、私には…____
「…ッ、澪!!!!!」
私の頭に響いてきたのは、さっき酷いことを言ってしまった人。
私に向けて投げられるその刀を受け取ると、身体に力が流れ込んできた。
____“なぁにボサっとしてんだよ、笑われんぞ?そんなんじゃ”
久しく聞いたその声に、目を見開いて動揺する。
いいの?私が使っても…私なんかが、一緒にいても。
「…お前俺のこと舐めてんだろ?こっちはとっくにお前に忠誠誓ってんだよ…、とっとと叫べ!!俺の名前を!!!」
彼は師匠にそっくりになったその風貌で、私の前に現れた。
そして私の手を取って、無理矢理刀を握らせて…いつかのように私を抱きしめる。
『!…ッ、…“水天逆巻け”…、“捩摺”…!!!!!』
口にすると共に、滝の水までもを奪い尽くして、天まで昇る大きな水の竜巻が吹き上がる。
そして手にした刀は形を変えて、柄が長く伸びた三叉槍になっていた。
それを、柳沢を睨みつけて振りかざせば、水が一気にそちらへ向かっていく。
「な、…なんだ、その力は…ッッ!!?」
