第14章 わからない人
太宰の口から出た言葉は予想もしていないほどに単純な内容だった。
怖がっている?……そうだ、昨日散々分かったじゃねえか、あいつは怖がりでそういう面では子供らしい奴だって。
「単純な理由だけど納得はいくだろう?純粋なあの子相手なら」
「………あいつは何を抱えてやがんだよ。手前が俺に言っちまえばいいだけの話なんじゃねえのか?」
「詳しいところまでは本人と以前の君しか知らないものが多いから何とも。それにとても私の口から軽々しく言ってもいいような内容じゃあないし…」
「珍しいな、話したがりの手前がそこまで渋るとは」
記憶を失くす前の俺は、そこまでの事を分かった上であいつと関係を築いていた…だからこそ妙に本能的にあいつの元にいたいと思うし、あいつも俺には記憶が無くともキツく当たれねえってことなのか。
「君の想像力じゃあとても考えつかないようなスケールのものだとだけ言っておくよ、何も人体実験だけがあの子の辛い記憶じゃあ無いのだから」
「…じゃああいつの寿命って何だよ、後半年ねえって」
「蝶ちゃんからそれについては何か言われた?」
首領にでも聞いてくれとだけならと答えれば、俺の嫌いな奴のふ、と笑ったような声が聞こえて、それから再び会話が続けられる。
「それならいいか…本当に世話が焼けるなあ、あの子と次会ったらちゃんと謝って甘やかしてあげなよね」
「甘やかしてって…いや、別に嫌なわけじゃねえが……」
「君もタイミングが悪すぎるのだよ、よりにもよって蝶ちゃんが一番不安に思っているようなこの時に記憶なんかなくして、挙句怒鳴りつけて家からとっとと追い出しちゃうだなんてさ?…………あの子、昨日は一睡もしていないっていうのに」
「!…どういう事だ」
「…………君の家なら、心配するべくは窓くらいのものだろう。バルコニーにでも出て、外に向かって手を伸ばしてごらんよ」
癪ではあるが太宰に言われた通りに動いてみれば、手が硬い何かに思いっきりぶつかった。
何だこれ、見えねえ壁か何かに阻まれているような……壁?
「…壁って、あいつの異能……?」
「……まあ、そういう事さ。昨日は寝た振りでもされてまんまと騙されたんだろう。あの子の演技は見破れないし……君が倒れた日、君と言葉を交わしてから、蝶ちゃん多分寝てないからね」
理由は流石の俺でももう分かる。
俺を守るためだ。
