第10章 名前を呼んで
「健気だねえ、全く…」
首領はサラサラと書類を作り、そこにサインをして封筒に入れる。
それを片方は芥川さんに、もう片方は立原に手渡した。
「芥川君はそれの通りに…樋口君にも頼んでおこう、あの子は蝶ちゃんの言うことならちゃんと信じて行動してくれるだろうからね」
「はい」
「で、立原君はそれを広津さんと銀君に。それぞれ指示が書いてあるから、君も一緒に読むといい」
「分かりました」
そして蝶ちゃんは……と私を見据える首領。
「…心配事を増やしてしまってすまないね。ちゃんと何かあったら頼れるよう連絡をするから、その時はお願いしてもいいかい?」
『!……はい、任せてください。あと首領、もし……もしも万が一、中也さんに手を出すような輩がいれば、私の手で殺させていただけませんか』
「これはまた…なんでなんて聞くまでもないけれど、そんなに今回の件が心配かい?」
『勿論、私はいつでもあの人の事を心配してますから。お願いです、あの人に何かあった場合だけは、私に相手の息の根を止めさせてください』
もはやこれはお願いなどではない。
交渉だ。
言い方を変えてしまえば、ただの私のわがままだ。
「………その時の状況を見て僕が判断する。君に簡単にこちらの道に戻ってこさせるわけにはいかない」
『…っ、でもあの人にもしなにかあったら私……っ!!』
「うん、痛いくらいによく分かる…だけど彼の方も、同じくらいに君の事が大事なんだ。もう無闇に人を殺させたくはないんだよ」
『…………あの人に何かあれば、私はそれだけで自分で殺しの意思を持てます。状況…によっては、ちゃんとお願いしますね』
「うん、そんな事が起こらないのが一番なんだけれどね」
首領の声でその場の雰囲気が少し軽くなった。
芥川さんは私の頭を数回撫でてから、自分がいる間は任せていろと安心させてくれる。
身近にこんなにも頼れる人がいた。
分かってくれる人がいた。
それだけで、だいぶ楽になる。
『はい、お願いします……あ、あと首領。あの三人って海外で暗殺業を営んでた人達なんですよね』
「そうだが……それが?」
『組合の方や学校の殺し屋関連の人達をたどっていって、あの三人の情報を探ってみようと思って』
「君の人脈の幅や情報網にはいつも驚かされてばかりだよ……うん、こちらこそお願いしよう。ただし無茶はしない事ね」
