第10章 名前を呼んで
「あ、姐さんまでなんでんな怒ってんだよ?だってあいつの性格は姐さんもよく分かってんだろ?それなら今はそっとしておいて、冷静にさせてやった方が…ま、待て姐さん、夜叉はやめとこう、夜叉は」
言いかけたところで姐さんが金色夜叉を出現させ、さしもの俺もこれ以上反論出来なくなった。
流石に怖ぇよこの人の異能は。
首領なんかもう威厳もどっかにいっちまって顔を青くして怯えかかってんぞ。
「中原幹部は相当女性経験が少ないと伺える」
「待てA、手前まで何を…」
「私でも分かりますよさっきのは」
ねえ?と聞くAにそうだそうだと頷く首領と姐さん。
あれ、おかしくねえか、Aとかこいつ確か元敵だよな?
ちょっと前まで姐さんも首領もかなり警戒してたよな?
しかもなんなんだこの状況、以前別の場所で、同じような事があったような気がすんぞ。
あいつが頭冷やしに行ってくるとか心配するなとか、俺に黙っててくれとか言う時って、どういう時だったか…
「え……いや、女性経験もなにも俺はんなもん興味無かったしよ」
「これじゃから脳筋は…乙女心を微塵も理解しておらぬ、太宰の奴にでも弟子入りして来た方がいいんじゃなかろうて」
「ぐ、ッ!!?んな事……ッ、いや、でもあいつはちょっと間静かにさせてほしいんじゃ…」
言いかけて、言うのをやめた。
テーブルの上に置かれたティーカップに目をやる。
律儀にちゃんと全部飲みきってから出て行った蝶……あいつらしい、どうせ飲んでから俺が淹れたものだという事などとうにバレていたのだろう。
じゃねえと、あんな短時間にあの蝶がこの量のもんを腹に入れられるはずがねえ。
そんなもの一つ目にするだけでも、頭の中は愛らしいあいつでいっぱいになる。
「…中原君、やはり行ってあげなさい。君が行ってあげなくてどうするんだ……彼女は勿論私情も挟んでいたとは思うが、何よりも君を想っての先程の行動なんじゃあないのかね?ついさっきまでの君のように」
「!!………分かってます」
「分かっておるなら行ってやれ…あの子がお主から離れて行きたがるわけがなかろうて。それだけ一緒にいて本当にここだけは物覚えの悪い奴じゃのう?中也に一番、引き止めて欲しかったに決まっているじゃろう」
「……それもあるだろうけど、あいつは俺に迎えに来てもらうのが一番好きなんだよ…すんません、探しに行ってきます」
