第10章 名前を呼んで
「…や、やっぱり誰かここで亡くなったのか?」
『うん……あんなところで死んでいいような人じゃないはずだった。だけど、私が気付きもしないうちに死んじゃってた』
ポツリポツリ、淡々と声をこぼしていく。
『太宰さんに深く関係するような話になっちゃうから、中也さんにも内緒で買った。太宰さんにも内緒で』
「……あれか、お前が四年前まで慕ってたっていう」
恐らく中也さんが私の事を話す時にでも漏らしたのだろう。
そう、とだけ返して、少ししてからゆっくりと立ち上がった。
『行こ、もういいよ。ここはお墓でもなんでもない、ただの場所なの。なんにもないところだから』
「!お、おう」
土地を出て、ゆっくりと歩いていって、港の近くを歩いていく。
そこから色んな路地を抜けて、入って、また抜けて。
「お、試しに検索かけてみたら出てきた。これか?さっきの花…えっと『チグリジア』そう、それ」
『そんなの検索してたんだ。面白い?』
「いいや、ちょっと興味があったくらいだよ。お前が花なんか珍しいなと思って」
『……チグリジアは短命なの。すぐにしぼんで枯れちゃう…でも綺麗だったでしょ』
詳しいんだな、とポカンとされるも、もう慣れてる。
私が詳しくて驚かれるだなんてこと、どこの世界に行っても同じだったから。
「お、花言葉なんてもんもあんのか…私を愛して下さいって……お前これ、幹部に嫉妬されんぞ?」
茶化すように笑う立原に、私も薄らと笑い返した。
『へえ、流石に花言葉なんて知らなかったな…大丈夫大丈夫、バレないよ。ていうか不可抗力でしょ』
「はは、お前らしい」
らしいのは立原の方だろう。
花のことなんかいきなり調べ始めて、花言葉だなんて言い始めるから一瞬本当にドキッとした。
私が織田作さんの死んだあの場所に、チグリジアの花を置いたのは二度目のこと。
中也さんと会えなくて、どう走ればいいのか分からなくなって、居場所を探して迷っていた時。
無謀な事に元いた世界に入れるかなんて試してみたり、無理だって分かってたくせして一人で勝手に苦しんだり。
そして今回のこの妙な胸騒ぎ。
誰に言えばいい、誰に頼めばいい。
誰なら、うまく動いてくれる…誰なら、この感覚が分かってくれる。
立原がいつもの調子で本当に良かった。
弱ってるとこなんて、見せられたものじゃないんだから。
