第10章 名前を呼んで
「花?誰かの見舞いにでも行くのか?」
『……誰にも会わないよ、綺麗な花が欲しかっただけ』
「へえ…でもなんなんだよその花?ユリ…じゃねえな、アヤメ?」
立原ってアヤメとか知ってるんだと目を丸くして聞き返すと、馬鹿にしてんのか!?と反論されたためうん、と素直に答えておいた。
白や桃色、黄色といった大きめのその花の花束を持って、たどり着いたところは……ただの“場所”。
「!廃墟…?って割には結構綺麗なんだな」
『当たり前でしょ、綺麗にしてあるんだから』
「綺麗にしてある?」
『……一部だけ、買ったの』
「買ったああ!!?」
立原のリアクションに少し驚いたのだけれど、気にせずにたどり着いたところの建物の中に入っていく。
今でも後悔ばかりが溢れてる。
ここを買ってからまともに来れたのだって、実験施設に捕まってたせいでこれでもまだ数回目だ。
太宰さんと再開してからはよくここで一人でいたのだけれど。
『静かにしててよ、うるさい』
「だ、だって買ったって…誰が『私』ですよね!!…なんで土地なんか」
『貯金に余裕あったから……ほら、もう大人しくしててね』
「犬かなにかか俺は………!____血痕…っ!?」
一箇所だけ、処理が遅れたのか遅くしたのか、血痕がやけに濃く残っている場所がある。
床に染み付いたその痕は、消えるのに何十年かかるのだろうか。
消えて欲しいけれど、消したくはない。
だからここを買い取った…だからここを、綺麗なままにしておいた。
誰にも荒らさせなんてしない。
誰にも消させたりなんてしない。
あの人の場所は、もう無くなってしまったから。
爆破され、消え去ってしまったいつかの飲食店のカレーを思い出しながら、深く残った血痕のすぐ側に膝をつき、血痕の上に花束を乗せる。
お墓参りだなんてものじゃない、自分勝手な逃避行動だ。
ただの現実逃避、ただ行き場がなくなった時に…ここに来るしかない時に、ただただ一人でいるための場所。
頭を冷やして、冷静にするための場所。
膝を立てて座り込んで、ただひたすらにぼんやりと血痕を見つめ続ける。
私がこの場にいられたら…私が少しでも気付いていたら。
後悔と今の苦しみが胸の中で溢れて、複雑に絡み合って溶けていった。
『……ここね、私が勝手に作った居場所なの。友達連れてきたの…喜んでくれてるかなぁ…』
