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第10章 名前を呼んで


『同じ気持ち悪さでもさっき出会った幹部はまた別の気持ち悪さ。なんせあの空間にずっとずっとなんていたくなかった…っ、なんで誰も気付かないの?なんで、誰もあれを気持ち悪いと思わないの?』

「……わざとらしくて、気持ち悪いんだな。幹部や首領には言ったのか?」

『…………組織を立て直すために導入した人達よ、相談するくらいならとっととさっき殺してきてた。ねえ、お願い…すっごく嫌な気配がするの、物凄く嫌な感じがするの』

普通じゃないと言われた時、あれがあの人の本性の片鱗だったのだろう。
私が思わず動揺してしまうその言葉。

だけど、わざわざあんな人が、ひとめぼれなんかで中也さんの秘書なんて立候補する?
あんなにわざとらしく、あの人に近付こうと…擦り寄ろうとなんて、する?

「…生憎俺は、日中はお前と一緒にいる。誰か他に相談できるような奴は?」

頭を回して、私が信頼出来、尚且つポートマフィアの構成員…そして強さも併せ持つ人物を頭に思い浮かべていく。
ある程度中也さんとも交流を持てて、立場的にも話が出来て…危機察知能力や独自の嗅覚を持っている人。

ここまで考えて頭の中に出てくるのは、今は亡きポートマフィアの最下級構成員。

あの人が今いてくれたら、どれだけ心強いだろう。
あの人がいてくれたら、どれだけ私は楽になれるだろう。

『ッ、…分からないよ……っ、分かんない…誰になら分かってもらえるの?中也さんでダメだったのに、誰にだったら…』

ポタポタと仕事服にシミを落としながら、頭の中からその考えを消そうと、そこに頼ってはいけないんだと言い聞かせる。

「お前がそんなに言うくらいだ、絶対何かあるのは間違いねえと俺は信じる……だがお前から離れるのも心配だし、したくねえ」

『…………頭、冷やしに外出たい。立原…時間、もらってもいい?…今日、夜まで時間、頂戴』

中也さんに…中也さんだからこそ言えない、あの気持ちの悪さ。
あんな人が中也さんに触れるだなんて…キスしようとするだなんて。

「夜まで?いいけど…幹部には連絡出来そうか」

『メールだけ送っとく。後はもう知らない』

「相当キてんなお前。外に、どっか落ち着ける場所でもあるってのか?」

『………場所しかないの。それしかない…それ以外に何もないの』

中也さんに場所は告げずに連絡を入れ、椅子から立ち上がって歩き始めた。
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