第10章 名前を呼んで
とりあえず入れと促されて、立原の執務室に入らせてもらう。
久しぶりに来たな、ここ。
『…私、殺すの我慢したもの。怪我させるだけにとどめて……ッ、ちゃんと骨折らないように加減してきたもの…!』
「なんだよ殺すとか加減とか……って、まさかお前、さっき誰か殺しかけてたって事か?」
『……そうよ、悪い?…って悪いわよねそりゃあ。でも思いとどまってちゃんと殺さずに出てきた…………ッ、中也さんに甘えずに出てきた…!!』
「わかった、とりあえず落ち着けって!!…ああほら、これお前と幹部の行きつけの店のプリン!自分用だったけどやるよ!!」
幹部という単語にさえもピクリと反応してしまって、立原相手にギロリと睨みつける。
『今、あの人の事考えたくない……手が勝手に動いて、さっきの人の事縊り殺したくなってくる』
「物騒な事ばっか言うんじゃねえよ、とりあえず一回冷静になれ!!プリンいらねえのか!?いらねえんならやらねえぞ!!?」
『いる』
「ブレねえなおい!!」
「成程、要するに嫉妬っつうわけですか」
立原からもらったプリンを完食し、少しだけ落ち着いて拗ねたように話を続ける。
『あんなのがこれから毎日日中中也さんと過ごすとか信じらんない…何考えてんのよ首領は、こんな事ならいっその事あの人殺して私が秘書に「てめえ武装探偵社の仕事も学校もあんだろが」でもあんなの…!!』
「あー、っと…要するに?幹部の今後が心配だ、と。……大丈夫だと思うぞ?あの人見ても分かるようにお前にベタ惚れみてえだし」
『……わざとらしいのよ』
ポツリと呟いた声に、立原があ?と返す。
『わざとらしい、あの甘ったるい声も人懐っこそうに緩めた表情も、中也さんへのスキンシップも纏ってる雰囲気も…っ、全部全部わざとらしい!!』
「ち、蝶さん?わざとらしいって、そりゃあ猫かぶってるとかちょっと甘えてるとか『甘えてるですって!!?』あ、あああると思うんですが!!!」
はあ、はあと息を切らせながら深呼吸して、声のボリュームを落とす。
『……あのわざとらしさが…気持ち悪さが分からないのが私には分からない。私と同じくらいには気配を察知できるような中也さんでさえもが、違和感なんてもの持ってなかった』
「!気持ち悪さ…?」
『…あの人だけじゃない、あの三人……わざとらしくて、気持ち悪い』
