第10章 名前を呼んで
「は、っ?蝶、お主もしや……いや、何もない。早く紹介を終わらせて終いにしようぞ、蝶が足りぬ、不足しておる」
「……!い、いや姐さん、やらねえからな?一応言っとくけど、姐さん相手でもやらねえからな!?」
「ははっ、本当に蝶ちゃんは可愛がられてるね……ではA君、自己紹介を」
首領の声にはい、と一言置いてから、五大幹部の一人であるというAさんが、先程のように私に自己紹介を始めた。
「改めて、Aと申します、白石蝶さん」
『ど、どうも…』
「お話に聞いていた通りのお方だ、本当に可愛らしくて美しい…どうですか、私と一緒にまた食事でも」
Aさんの誘いに中也さんと紅葉さんがバッと振り向く。
『すみません、私かなりの少食なので』
「そうですか…それは失礼。では甘いものならいかがですか?好物だとお聞きしました」
『ごめんなさい……甘いものは確かに好きですけど、プライベートで十分に足りているので大丈夫なんです。お誘いありがとうございます』
やんわりとお断りするとそれ以上相手もしつこく迫ってくることなく、あっさりと退いてくれた。
中也さんなんかは冷や汗を流しながらおぉ…、と私の方に青い顔を向けている。
私がこんな胡散臭い人と食事になんて行くわけがないじゃない、そんなに信用ないかな私。
『で、首領?本当の要件は何なんですか?私とAさんを合わせるためだけに、中也さんはまだしも紅葉さんまでわざわざ声をかけないでしょう?』
話を切り替えて首領を見ると、流石だねと首領の雰囲気が変わる。
中也さんも紅葉さんも、そしてAさんも疑問に思うらしく、首を傾げて首領に顔を向ける。
「組織の立て直しにおいて、これから仕事もどんどん増える。そこで特に複雑な仕事を任せることが多くなる君達には、秘書を付けようと思ってね?」
『…それ私がいる意味ありますか?』
「う、うん…まあある意味いてくれた方がね。ほら、ポートマフィアの内情をちゃんと知っておいてもらいたいし……色々あって」
言葉を濁して苦笑いを浮かべる首領を少し不審に思って感覚を研ぎ澄ませる。
すると人の気配が四つ…一つは会議室の外にいる立原だろう。
となると残りの三つは、ここにいる三人の五大幹部の秘書達。
「出てきてくれたまえ」
首領の声に続いて姿を現した三人の秘書…そのうちの一人に、私はこれから頭を悩まされる事となる。
