第10章 衝動【カラ松、チョロ松】
電車に揺られ、赤塚区に着いた頃には、もうとっぷりと夜も更けていた。
絵菜ちゃんは言葉少なで、表情も硬い。でも泣きそうだったさっきに比べれば、幾分か落ち着いてきているみたいだ。
本当は一旦うちで休ませてあげたいところだけど、父さんや母さんに何事かと思われるし、一から説明するのも大変だからな…
「絵菜ちゃん、疲れてるだろうけど、もう少し頑張ってね。僕が君の家まで送るよ」
「えっ…そんな、チョロ松くんだって疲れてるでしょ?家までは距離があるから、そこまでしてもらうわけにはいかないよ」
「気持ちは嬉しいけど、あんなことがあった後で、君を一人で帰らせるわけにはいかない。お節介だって分かってるけど、ごめんね。もう決めたことだから」
「でも…」
なおも断ろうとする彼女。…どうすれば、この甘え下手な性格を治せるのかな。
「…ねぇ、絵菜ちゃん。遠慮なんてしなくていいんだよ」
「え…?」
「僕さ…カラ松もそうだけど、君に頼られて嬉しかった。そりゃ、助けてっていきなりだったからすごく焦ったけど、今までの君だったら、絶対一人でなんとかしようとしてただろ?君はいつも笑顔だけど、どこか他人と線を引いてる印象があって…考えてみたら僕たち、君のことほとんど何も知らないんだ」
「…!」
「だから、信頼されてないんじゃないかって…もしかしたら、僕らが一方的に友達だと思ってるだけなんじゃないかって、実はちょっと不安だったんだよ。…でもそんなことなかったね」
「……」
「男は女の子に頼られると喜ぶ生き物なんだ。僕たちもそう。君に頼られると嬉しいし、君のためならどんな困難にも立ち向かえる。誰も迷惑だなんて思わない。むしろ君が一人で抱え込んでしまうほうが、信頼されていない気がして嫌なんだ。…頼られるだけで再確認できる絆もあるんだよ」
「…チョロ松くん…」
顔を上げた彼女の瞳には、先ほどまでとは違い、微かに光が灯っていて。
「うん…私きっと…今までずっと、誰かにそう言ってもらいたかったのかもしれない。…ありがとう」
今日初めて見た彼女の笑顔は、やっぱり…とても、綺麗だった。