第10章 衝動【カラ松、チョロ松】
【カラ松side】
…一瞬、時が止まったかと思った。いや、少なくとも思考は停止した。
やっとの思いで辿り着いた場所。無事でいてくれと祈りながら乗り込み、そこで見たのは、
…男に押し倒され、泣いている絵菜の姿だった。
全く予想できなかったわけではない。だが実際目にするとあまりにも衝撃的すぎて、
…気付けば俺は、彼女に跨がる男を殴り飛ばしていた。
「が…ッ!」
男は壁に思い切り背中を打ち付け、悶絶する。それでも怒りが収まらない俺は、さらに男の胸ぐらを掴み、顔目掛けて再び拳を振り上げた。
しかし、
「カラ松!!」
「カラ松くん、やめて…っ!」
チョロ松の声と彼女の悲痛な叫びで冷静さを取り戻し、振り上げていた拳を下ろす。
…そうだ。暴力に身を委ねてはいけない。今は彼女を助けることが優先だろう。
「…チョロ松、彼女を連れて先に逃げろ」
「え!でも」
「いいから、早く行くんだ。…俺はいろいろと、こいつに聞かなきゃならないことがあるからな」
俺が凄むと、男は「ひッ!」と肩をすぼめる。
チョロ松は少し考えていたが、俺の様子を見て大丈夫だと判断したのだろう。
「…分かった。なるべく早く帰ってきなよ。みんな心配するからさ」
「ああ」
「カラ松くん…」
絵菜が不安そうな眼差しを向けてくる。
「…心配するな、絵菜。これ以上こいつに危害は加えない。話を聞くだけだ。終わればすぐ帰ってくる。だから今はとにかくチョロ松と一緒に戻ることだけ考えていてくれ」
できるだけ優しい口調で言うと、彼女もようやく安心したのかこくりと頷き、チョロ松と共にリビングを後にした。
「…さて…尋問といこうか」
依然怯えたままの男を見下ろしながら、わざと低い声で凄んでみせる。男は恐怖心からかがくがくと震えている。
…やはり、あの時すれ違った男だ。もし確信できていたなら…
いや、後悔するのはあとだ。まずはこいつにこれまでの諸々を問い質さなければな。