第10章 衝動【カラ松、チョロ松】
「?どうしたの絵菜。あ、もしかして嬉しすぎて言葉が出ない?」
隣で舞が何か言っている。でも耳に入ってこない。頭の中がこんがらがる。状況が飲み込めない。
逃げなきゃ。でも私の足はまるで金縛りに遭ったかのように微動だにしない。
そうこうしているうちに、あいつは私の目の前までやってきた。
…一年前と変わらない、卑しい笑みを湛えて。
「あれ、せめてなんか言ってよ絵菜。…俺、君の恋人でしょ?」
頬に伸びてくる手。だんだんと顔が近付いてきて…
そこでやっと私は我に返り、反射的にその手を払い落とした。
パン…ッ!
「…っ」
「絵菜!?」
「触らないで…!」
睨み付ける。しかし彼は払い落とされた時の痛みで一瞬苦悶の表情を浮かべたけれど、すぐにいつもの飄々とした態度に戻った。
「あーあ、まだご機嫌ナナメなんだ。まるで狂犬だな」
「うるさい…!この間から本当になんなの!?舞まで利用して…!」
「利用?失礼だなぁ、人聞きの悪い言い方するなよ。舞ちゃんには協力してもらっただけ」
っだめだ、ここで押し問答を繰り返してても埒があかない。
「舞、こんなやつ放っておいて行こう!」
「え…えぇ?!」
踵を返し、慌てふためく舞の手を引いて走り出そうとする。
しかし、
「ちっ…逃がすかよ」
舌打ちが聞こえたと思った瞬間、振り返る間もなく首の後ろに鋭い痛みが走り…
徐々に傾く体。そして、
視界が暗転した。