第14章 Ephemeral(黄瀬涼太)
「くそ、毎回早すぎて嫌んなるっスわ……」
その言い方が可愛くて、肩に預けられた頭を思わず撫でてしまった。髪が汗で少し濡れている。
顔を上げた涼太は、私の目尻にそっとキスを置いていった。さっきまでボロボロ泣いていたから、跡になっているかもしれない。いい年した大人なのに。
まだ、繋がりはほどいていない。
抱き合った身体が温かくて、そのまま凭れ掛かって涼太の香りを胸いっぱいに吸い込む。
家族と言えど、多忙な彼と過ごせる時間はそんなに多くない。シーズン中なんかは、チームメイトの方が一緒にいる時間は長いだろう。
当たり前なんだけれど、時々それが無性に寂しくなる。
「みわ、ごめんね、いつも寂しい思いさせて」
心の声が漏れてしまっていたのかと驚いて、慌てて首を横に振る。
涼太には、それこそ言い表せないものをたくさんもらっている。
私が欲しかったものを全部。
寂しい気持ち以上に、毎日幸せだ。
「ありがとう」って、「大好きだよ」って言うようにはしているけど、この気持ちの何分の一も伝わっている気がしない。
それ以上の言葉があればいいのに。
涼太がくれる言葉みたいに、きらきら胸の中で御守りになる言葉が。
どうしてうまく言えないんだろう。
また、ぶんぶんと首を振った。
「寂しい時もある……けど、帰って来てくれた時、嬉しいから……大丈夫」
ぼんやりとした頭と力が入らない身体で、これだけ言うのが精一杯だった。
「みわ、いつも遅くまで起きて待っててくれてありがと。誰かが待っててくれる家に帰れるって、めちゃくちゃ幸せなんスよね」
「ただいま」「おかえり」が言える幸せ。
当たり前のようで、当たり前なんかじゃないんだよね。