My important place【D.Gray-man】
第37章 6/6Birthday(番外編)
ただ…景色を愛でる心なんて持っちゃいないが、確かにあの時は"綺麗"だと思えた。
鮮やかな朱色の夕日と淡い虹色をその目に映して、顔を綻ばせる雪の姿に。
濡れた髪や肌を微かな光がきらびやかに反射して、そんな雪の横顔に、何故か声はかけられなかった。
触れるより、きっと見ていたいと思ったんだろう。
そんな目を奪われるくらいに、情感的に何か感じたのは──…初めて地下の研究所から地上に踏み出た、あの時以来だった。
"ご…めん…ごめん………アルマ…"
どこまでもどこまでも続く、青い藍い空。
〝いつか一緒に見ることができたなら〟
そう呟いていたあいつを深い地下の血の海に残したまま、俺が一人で目にしたもの。
知らないはずなのに。
初めて見たものなのに。
俺はその空を知っていた。
その青さもその大きさも、ずっとずっと前から知っていたんだ。
その時見上げたガキの体の俺じゃなく、壊れた記憶の中の"俺"が見たことのあるものだったから。
記憶の"俺"が死ぬ間際に見た、手を伸ばした先に在ったもの。
それは青く澄み渡って、どこまでもどこまでも続いている空だった。
"泥の中から天に向かって生まれて、世界を芳しくする花なのよ"
あの人に云われた言葉が、頭に木霊して。
あの人の顔だけが、脳裏に焼き付いて。
裂けて血塗れの使い物にならない腕を持ち上げて、あの人に想いを馳せた。
それと同じ空だった。
血と涙で滲む空を見上げて、今度はアルマへと思いを馳せて。綺麗だと思った。
憎らしい程に綺麗な空。
それが最後。
もうそんな思い、どこにも抱かないと思っていた。
「ユウはそれでいいって言ってくれるけど…なんかやっぱり、散々だったなぁって…」
「……」
…こいつに会うまでは。
眉を下げて苦笑する雪を見る。
俺はお前から祝いの言葉を一つ貰えれば、それで充分だけどな。
…そう言おうと思ったものの、その顔を見るとなんとなくそんな気になれなくて。
「……なら、一つだけ」
「え?」
気付けばそんなことを口にしていた。
「俺にも望みがある」