My important place【D.Gray-man】
第37章 6/6Birthday(番外編)
✣
呼んだ体は朧気に宙だけ見つめて、何かに向かって手を伸ばしていた。
踏み出したその足の先は、何もない。
ロープが切れて柵の壊れた橋の一部。
そこに吸い込まれるかのように踏み出す雪の体は、まるで身を投げ出しているようにも見えた。
「チィッ!」
舌打ち混じりに後を追って飛び出す。
掴んだのは橋のロープとマントのフード。
「ぐぇっ…!?」
宙に体がぶらつくと同時に、蛙のような潰れた悲鳴が聞こえた。
「く、首締ま…っ!? なん…ッ!」
「暴れんな! 落ちるぞ!」
首元のマントを抑えてバタつく雪に声を張り上げる。
テメェ暴れんな!
落ちたら谷底まで真っ逆さまだからな!
「へ…ユ、ウっ?」
ぎこちないながらも下から見上げてくる目が、俺を映して驚きに変わる。
「ッ!? 何これ…!?」
更に自分の状況を悟ったらしく、ぎょっとした顔で底が見えない真っ白な谷底に悲鳴を上げた。
「大人しくしてろ、今引き上げるッ」
「ぃ…ッく、苦し…ッ」
「我儘言うな!」
雪の手が俺と同じに吊り橋のロープを掴める高さまで、フードを引っ張って持ち上げてやる。
青い顔でなんとか吊り橋に齧り付く雪を確認して、やっと手を離した。
後は自力で上がれんだろ。
「テメェ何あんな幻に騙されてんだよ」
手に力を入れて吊り橋の上に上がる。
未だに橋に齧り付いたままの雪を見下ろして、つい呆れて吐き捨てた。
どう見たってあれは俺と同じに、幻か何か見てた姿だ。
何もない宙を凝視して、求めるように手を伸ばしていた。
「も…もしかしたら…幽霊じゃないかなって思って…」
「ビビリの癖になんで幽霊にホイホイついて行こうとしてんだよ、阿呆か」
「だってあれは──…ッ」
何か言いかけようとして、雪の口が止まる。
言いたいことを押し黙るように。
…こういう時のこいつは知ってる。
恐らくこいつにとって鬼門か何か、軽視できないことを口にしようとしたんだろう。