• テキストサイズ

My important place【D.Gray-man】

第23章 2/14Valentine



 確かに一人で生き続けているけど、前に一歩踏み出したいと思えたことはあった。
 神田に近付きたいって、そう。
 思い切って踏み出した私に、神田はちゃんと応えてくれたから。
 一歩くらいは前に踏み出せた気がする。

 どれくらいそうしていたんだろう。


「くしゅんっ」


 くしゃみが漏れて、瞑っていた目を開ける。
 降り続ける雨はやっぱり止む気配がなく、未だに私の周りを取り囲んでいた。
 寒さを感じる体を抱いて、目の前の地面にできた水溜りに視線を落とす。

 この世界に一人きり。
 それはまだ変わらないけれど。


「…踏み出したら変わるかな」


 思い切って一歩踏み出して、見えていたものは大きく変わった。
 もっと踏み出してみれば、もしかしてこの雨の中の世界も変わるかもしれない。


「…くしゅッ」


 もう一度くしゃみが漏れて、反射で俯く。

 ──バチャリと、一定の雨音の静寂の中で聞こえた水を重く踏み付けるような音。

 顔を上げる。
 見えたのは、アーチ状の小さな橋の天井に手をかけて私を見下ろす黒い人。


「…ぁ」

「何やってんだよ」


 長い黒髪を肌に張り付けて、全身濡れた姿で立つ神田だった。


「…どうして…」


 視覚も聴覚も上手く機能できないこの雨の世界の中、一体どうやって見つけたの。
 思わず驚き呟けば、深々と溜息をついて橋の下に入ってくる。


「どうしてもこうしてもあるか。人が捜し回ってんのに、こんな所で居眠りかよ」

「ね、寝てないよ」


 ちょっと休憩してただけで。
 ちょっと雨宿りしてただけで。
 ちょっと…何もせずにぼんやりはしてたけど。
 ごめんなさい。


「神田、凄いずぶ濡れ」

「当たり前だろ。雨が降ってんだ」


 ドサリと隣に腰を下ろしてくる神田は、頭から足先までびしょびしょだ。
 無造作に座り込んだ際に、小さな水飛沫を肌に感じた程だから。
 長い黒髪からも滴る雨水は止まることなく、黒い服にしみ込んでいく。

 明らかに私より濡れてる…それだけずっと、この雨の中捜してくれたんだろう。

/ 2655ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp