My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
✣
天井のない吹き抜けの中庭で、風が通り過ぎる。
つられて髪が攫われて、頬を擦れていく。
自分の髪ながら煩わしさに手で払えば、ああ、なんて残念そうな溜息が真正面から零れた。
「折角綺麗な髪が踊る素敵な一場面だったのに。ユーくん、そのまま動かないで」
「……」
ドンッ!
「おおっと」
「なんであんたは絵描きなんざしてんだ」
動くなと制すその人──ティエドール元帥の手には、見慣れたスケブと木炭。
睨み返しながら目の前の机を拳で叩けば、揺れる酒瓶とグラスを即座にその手が取り上げた。
「なんでって、折角ユーくんが誘ってくれたんだから記念に」
「俺が誘ったのは飲みだけだ。誰が描いていいなんて言った」
「顔が怖いよ~ユーくん。笑顔笑顔」
その接し方が余計に俺の顔の筋肉を強張らせてんだよ。
なんて言ったってこの人の態度が変わるはずもないから、怒りの原因であるスケブを取り上げることにした。
「あ! 何を…っ」
「破かれたくなけりゃ大人しく酒だけ飲んでろクソ親父」
「いつも以上に口が悪いねぇ…もうお酒に酔ったのかな?」
「んな訳ねぇだろ」
これくらいじゃ酔えやしない。
中庭の机に置かれているのは、俺が以前元帥に譲った酒。
また酌み交わそうと言っていた元帥を、雪を教団の牢獄から解放できた礼に誘おうとしたが長期任務なのか見当たらず、あの時は誘えなかった。
ようやく教団内で見つけた姿を引っ捕まえて飲みに誘えば、返事一つでついてきた。
かと思えば酒を置いてせっせとお得意の絵画に走る始末。
俺が怒るのをわかっててなんでやるんだ、この人は毎度。
「そうだね。いつも以上に便秘を我慢してるような顔してるもんねぇ君」
「あ?」
「そういう態度は相変わらずだけど」
どうせ脅したところで、この人は一つも怯みはしない。
だから遠慮なく殺気を放っていれば、やれやれと溜息をついて元帥はようやく目の前のグラスに手をかけた。
「他人への接し方の不器用さも、相変わらずだ」
「んだよ」
「そんなに睨み付けなくても、君が私を誘った理由はわかっているよ。吐き出したいことがあったんだろう?」
「……」
涼しい顔で、当然のような口調で、核心を突いてくる。
この人に勝てないと思うのは、いつもそこだ。