My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
「後ろに逃げることはなくなったけど…前に進むこともできなくて。立ち往生で動けないままだった私を、押してくれたのは……ユウだったんだよ」
顔を上げる。
今度は真っ直ぐにユウの顔を見つめて。
「求めないのは、辛い思いをするのが嫌だから。結局それも臆病な私の心のままで。そこに勇気をくれたのは、ユウだった」
欲しいものを欲しいと言う。
当たり前のようで私には難しかったことを、背中を押して促してくれて。
そして、その欲したものを彼はくれた。
「初めて、赤の他人を強く欲したの。初めて、自分より大切だって思えた。泣きたくなるくらい嬉しい思いも、触れてるだけで世界が変わって見える思いも、ユウが教えてくれたんだよ」
両手で包んだユウの拳を、胸元に引き寄せる。
「ごめんなさい…大事なこと、伝えられなくて。でも、自分がノアだってわかっても、絶望だけの日々じゃなかったのは…不安だけじゃなく笑っていられたのは…ユウがいてくれたから。一人だけど、独りじゃなかったから。…だから今日まで、こうして教団で生きてこられた」
悲しいだけじゃなかった。
辛いだけじゃなかった。
嬉しいこと、楽しいこと、輝いていた日々もあった。
ユウの傍にいれば自然とアレンとの喧嘩を仲裁することも多くなって。間で止めるのは大変だったけど、あれはあれで見物で面白い時もあった。
ユウへの想いをラビに見破られて、だけどそのお陰で真っ直ぐラビの本音とも向き合うことができた。
恋の応援なんて言いながら、リナリーには色んな服をコーディネートされて着飾られたり。
そういえばリンクさんに香水カタログ、貰ったりもしたっけ。
ジェリーさんの下でケークサレを何度も教わったり。
マリと運命共同体を組んで。
ティエドール元帥にはあの花畑の一件以来、何故かよく絵画の被写体を頼まれるようになった。
クロウリーの亡き恋人、エリアーデの思い出話を聞いたり。
ミランダさんのバレンタインのチョコ選びをするのも、なんだかんだ楽しかった。
そうして、ユウ以外の教団の皆とも笑い合っていられたのは。きっとユウのお陰なんだよ。
私が心を開けたきっかけの人だから。