My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
ベッドから浮かせていた腰を、再び下ろす。
「……本当に…欲しいものは…手に入らなかったから」
私の手に触れる手前で止まっている、ユウの拳。
そこに視線を落としてじっと見つめた。
「教団に入団する前…私、親の遠い親戚だって人達の所で、お世話になってたの」
物心ついた頃から住んでいた、小母さん達の家。
本当に親と血の繋がりがあったのか、幼いながらに疑問はあった。
だって、いつも親の文句は聞かされていたし。
こんな面倒なものを置いていってって。
私を見ながら悪態つく小母さんが、昔から怖くて苦手だった。
「其処には暖かい暖炉のある部屋も、手の込んだ手料理も、ふかふかのベッドも、あったけど…私にはなかった。…世話されてる身だから、贅沢はできないんだって。ずっとそう思ってた」
ずっとそう、言われ続けてきたから。
だから当たり前のものとして受け入れて、自分を悲観したことはない。
…ただ。
じゃあ私も本当の親の下へ行けば、そういうものが手に入るのかなって。
暖かい部屋も、私の為に作ってくれる料理も、優しく身を包んでくれるベッドも。
本当のお父さんとお母さんの傍なら手に入るのかなって。
幼く拙い頭で、単純にそんなことを考えるようになった。
「だから、自分から親の下に行こうと思って、教団を目指したの。本当のお父さんとお母さんなら、私を愛してくれるんじゃないかって」
例えば。
怪我をして帰ってきたら、大丈夫だよって優しく迎えてくれて。
自分の生まれた日には、おめでとうと笑顔で祝福してくれるような。
見返りも何もなく、愛してくれる存在。
「でも、やっとの思いで教団に辿り着いた時…私の親は、もう、この世にはいなかった」
だけど喉から手が出る程に欲した存在は、呆気なく散っていた。
聖戦という戦争に潰されて。
私に残されたのは朧気な二人の記憶と、クロス元帥が密かに渡してくれた教団での二人の情報だけ。
それでも紙上に情報を記すことは許されないことだから、後に貰った書類は自分で処分した。
頭の中に、一文字残らず二人を印した言葉を刻み込んで。