第16章 空の上 海の中
エースがいない、どこにもいない
ずっと捜しているのに
いる場所もわかっているのに
私の手をすり抜けて、黒い髪の彼はゆらゆらと海を漂っている
必死に追いかけて、やっとの思いで捕まえる
手から伝わるエースの温もり
なんだ…………ちゃんといるじゃない
「………エース」
掴んだ手に力を入れ、甘い声で名前を呼ぶ
極上の笑顔で見つめる………が、彼は驚いた顔で私を見おろしている………
「?」
イリスは違和感を感じた瞬間、意識を失った
「エースって誰ッスかね?」
彼女の言葉にモヤモヤしている自分がいる
ペンギンは人の気も知らずに核心をついた質問を繰り返す
「こっちの男の名前でしょうか……?」
イリスの隣に寝ている男を見て言う
考えないようにはしていたが、男女が行動を共にするのはやはり………
「恋人なんスかね~?」
「……………チッ…」
ローはペンギンを睨むと医務室から出て行ってしまった
閉められたドア、廊下を歩く音にも彼の不機嫌さが表れていた
ペンギンは、わざとらしかったかな?と反省するも、ローを退室させる事に成功した
側に居たい気持ちはわかるが、あのまま居られては本当に感染してしまいそうだし、船長の仕事はここだけでは無い
他の船員にも示しがつかないので船長としての仕事をしてもらおう
頷くペンギンは二人の治療を続ける
イリスが目を開けると、そこは見慣れない部屋だった
部屋中に置かれた機械、金属パイプの張り巡らされた天井、視線を傾けるとベッドに寝ているグレイスがいた
グレイスの存在に安堵して一息つくと、目の前に立っている人と目が合った
「あっ!気がついたんッスね」
その人はマスク、手袋、白衣に、帽子と、見るからにお医者さんだった
喉渇いてないかと問われ、水を飲ませてくれた
「………ありがとう」
戸惑いながらもお礼を言ったイリスが可愛くて、一瞬ボーッとなるペンギン
「……………ハッ!今、船長呼んでくるから!」
バタバタと部屋を後にするお医者さんをイリスはボンヤリ眺めていた