第48章 欠けた力
滅びの歌。
それは、聞き手の命を奪う禁忌の歌。
実際になにが起きるかはモモも知らない。
けれど母は言ったのだ。
この歌は憎しみの唄だから、絶対に唄ってはいけない…と。
その教えを聞いてから、もう20年以上の月日が経った。
気がつけば、モモはあと数年で母と同じ歳になる。
(わたしはもう、子供じゃない。)
人間としても、セイレーンとしても成人した。
だから、その禁忌を変えられるんじゃないか。
人を滅ぼすために唄うんじゃない。
救うために唄うのだ。
これは、賭けだった。
当然ながら、滅びの歌は一度も唄ったことがない。
初めて唄う歌をコントロールする。
人を滅ぼさず、寄生虫だけを滅ぼすように。
成功させる自信なんかない。
でも、それでもやらなきゃ、キッドに大切な人を殺させてしまう。
それだけは、なんとしても止めたい。
ならばモモも、代償を払わなければ。
できることは、なんでもやる。
結果、母との約束を破ることになっても。
(ごめんなさい、お母さん。それでもわたし、誰かを救う道を選びたいの…!)
「──キッド!」
壊れるくらいの勢いで、玄関のドアを開け放つ。
音に驚いて、キッドもホーキンスもこちらを振り返った。
キラーは…。
まだ、ベッドの上で病に苦しんでいた。
腹部は切り裂かれていない。
(良かった、間に合った…。)
安堵するモモとは対照的に、キッドはあからさまに嫌な顔をした。
「お前、なにをしにきた。」
言外に「なぜ島を出ない」と責めている。
ありがとう、キッド。
あなたは本当に優しい人。
だからこそ、わたしもあなたを助けたい。
「キラーを…、救いたいの。」
救いたい。
キラーの命も、村人の命も。
そして、キッドがこれから背負うであろう傷を。