第48章 欠けた力
海へ旅立つ切符を捨て、島に残る決断をしたモモは、キッドを追って家路を急ぐ。
(早まらないで…!)
どんなに剣の腕がよくても、運がよくても、素人がオペなど無理だ。
なにもしないよりはマシ。
でも、それとこれとは別問題。
医療に携わる者として、止めなくてはいけない。
なにより、キッドにキラーを殺させたくなかった。
けれど彼は、モモがいくら正論をかざしたところで、取り合ってくれる人ではない。
それに代わる打開策でもない限り。
「……キラーを助ける方法。」
病の正体がエキノコックス症だとわかった瞬間、ありとあらゆる方法を考えた。
けれど、結局は外科手術にたどり着き、諦めざるをえなくなる。
でも、ひとつだけ…。
「わたしは、セイレーン。」
幾度も歌の力に助けられてきた。
だけど今回ばかりは、いくら癒しの歌を唄っても効果はない。
なぜなら、病の原因である寄生虫を取り除かないと治らないからだ。
(でも、癒すばかりが治療じゃないわ。)
発想を逆転させるのだ。
もし、モモの歌で寄生虫を殺すことができるなら…?
根治とはいかなくても、少なくとも病の進行は止まる。
けれど、モモは治療に関して言えば、癒しの歌しか唄ったことがない。
わたしに、できるだろうか…。
(だけどここで諦めたら、すべてが終わりだわ。)
大丈夫、唄える。
ほら、確かあったじゃないか。
昔、お母さんが教えてくれた──。
『モモ、いい? この歌は、決して唄ってはいけないのよ。』
キン、と頭が痛んだ。
そうだ、あれは、歌を唄えるようになった自分に、母が教えてくれた歌のひとつ。
けれどその歌を、決して口にしてはいけないと固く約束した。
その時は、だったらどうして教えるのだろうと不思議に思ったが、今ならわかる。
歌を絶やさないためだ。
語り継いでいかねば、教えは死んでしまう。
もしかしたら母は、近いうちに別れが訪れることを予感していたのだろうか。
絶対に、絶対に唄ってはいけない歌。
その歌は…。
「……滅びの歌。」