第48章 欠けた力
「なにも、指に嵌めろなんて言ってないわよ。」
そう言うと、メルディアは腰につけたポーチから、細い革紐を取り出した。
「首から下げていればいいじゃない。」
確かにそうすれば あまり違和感もないかもしれないが、そこまでする意味がわからない。
するとメルディアは、スターエメラルドに映る星を眺めながら、おもむろに話した。
「以前、モモが言っていたのよ。その指輪には、不思議な力が宿っているんですって。」
不思議な力…。
目に見えない“なにか”が、指輪を通じて助けてくれる。
モモはそう信じていた。
「私は目にしたことはないけどね。モモは何度も助けられたって言っていたわ。」
だから、モモと離れた今、ローも身につけていた方がいい。
「……。」
不思議な力だと?
残念ながら、ローはそういう確かめようもない力を信じない。
しかし、魚人島でモモが「人魚姫の魂に助けられた」と言っていたことを思い出す。
極度の緊張状態が続き、幻覚でも見たのかと思っていたが…。
「……。」
無言のまま、メルディアが差し出す革紐を受け取った。
「言っておくが、そんな不思議話を信じたわけじゃねェ。」
あえて言うなら、義理立て。
モモがそう信じているのに、ローが真っ向から否定するわけにはいかないからだ。
革紐に指輪を通し、首から下げた。
だけど仲間たちにそれを知られるのが嫌で、パーカーの前を閉めておく。
「別に恥ずかしいことじゃないのに。」
「うるせェな。だいたいお前、客扱いとはいえ部外者なんだ。あんまり船内をちょろちょろするんじゃねェよ。」
「あら…、そんな冷たいこと言うと、モモに昔話をしたくなっちゃうかも。」
例えば、若い頃は来る者を拒まず…だったこととか。
「…てめェ、余計なことを言ってみろ。その声帯をバラしてやるよ。」
「あなたの怖いところって、本当にやるところよねぇ。」
この天才外科医は、どんな部位でも簡単に抜き取ってしまう。
ああ、怖い。
メルディアは大げさに首をすくめながら、客室へと歩いていった。