第45章 前方互換アノード
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「ギ、ギル、お願い」
大粒の雨が、震える懇願をかき消した。
彼女の顔は、傘を忘れたようにずぶ濡れになっていた。
実際雨にも濡れているのだろう。
泣きじゃくっているためか、眼球は充血し、目元は赤く腫れている。
彼女が肩で支えるのは長身痩躯の男――ギルベルトだ。
「もう、戻らなきゃ……っ!」
「大丈夫だって。んな泣くな」
「だって、ち、血が……っ」
彼女の言うとおり、ギルの足元には赤い水溜まりができていた。
ポタポタと、後方にも血の跡がある。
どしゃぶりとは言わないまでも、間断なく降りしきる大きな雨粒に洗い流され、それは数歩前までしか残されていない。
ギルは、脇腹をかばうように押さえながら立っていた。
顔色は、いつもよりもっと蒼白だ。
「俺様は強いんだから、心配すんな」
そう言って、肩に回した手を彼女の頭にぽんと乗せた。
ギルは目の前の電波塔を見上げる。
憂いを帯びたその彫刻のような横顔を、私は見たことがあった。
でも、じゃあなぜ、
“私が隣にいる?”
ギルが、ふとこちらを振り向き、
「――え」
小さく、笑いかけてきた。
二人の姿が、声が、ゆっくりと遠ざかる。
雨音が止んでいき、遠雷はもっと遠くなっていく。
トリップのときに感じるような、ここではないどこかへの中心へと、引きずり吸い込まれていくような。
「待って――」
――これは、いつの記憶?