第45章 前方互換アノード
ぐいと腕を引っ張られ、体が勝手に走り出していた。
ヨンスだ。その顔は努めて無感情になろうとしているが、口許はきつく結ばれている。
その顔を見ただけで、私もぎゅっと口をつぐんだ。
ヨンスの方が、どれだけつらいか。
苦しくなる呼吸の中に、鉄の匂いが混じる。
それはすぐ隣の、ヨンスから匂い立つものだ。
まさか――
「っ!」
「ヨンス!」
ドンッ、とヨンスが前に転がる。
その足には、黒い手がまとわりついていた。
ヨンスは起き上がろうとするが、足を引っ張られ、そのたびに体勢を崩している。
「このっ、このっ!」
靄を追い払おうとするが、一瞬風に撫でられて薄くなるだけで、むしろだんだん濃くなっていくようにも見える。
黒い人影が、ゆっくり、わらわらと集まってきていた。
まずい、落ち着け。
エドと同じように“接続”している私にならできるはずだ。
エドと同じように、靄を追い払うものを生成する。
それか、ヨンスを軽々運べるものを――
「公子さんっ!」
ざしゅ、と。
そんな音がして。
目の前に、香くんの斬撃をマトモに食らったエドがいた。
右肩から腹にかけて、香くんの刃が刺さっている。
ぱき、とディスプレイが割れるような音。
それから、ぱらぱらと、青白い文字列が傷口から地面に落ちていく。
――まるで、血液のように。
「大丈夫、走って」
私とヨンスに顔を向け、エドは微笑した。
それは、「なにも心配はいりませんよ」とでもいうようで、誰かさんを思い出させた。
香くんの温度のない瞳は、焦点も合わずふらふらと中空を漂っている。
でも、空虚な殺意は、確かにその腕を運動させていて、
「――このプログラムは”あなたのもの”ですから」
香くんが、勢いよく刃を引き抜く。
その反動のまま、エドの体躯が地面に叩きつけられた。