第6章 strategie⑥
すると携帯が部屋に鳴り響いた。
ディスプレイを覗くと、タクヤからの着信だ。
わたしは一瞬ドキリとしてから、見て見ぬふりをするように携帯を裏返しにする。
わたしが家出してからというもの、一日に2〜3回彼からの着信やメールが来ているのだ。
しかしわたしはそのどれも無視している。
いったいなにを話せばいいというのだ。
わたしは少し落ち着こうとタバコに火をつけて、深く煙を吸い込んだ。
タクヤからのメールは
「一度出て」
「話したい」
「心配だから電話して」
などわたしを責めるものはなく、どれも全うなメールばかりであった。
タクヤがもっと酷い男だったら良いのに。と思う。
もっと酷い男なら、わたしも自分を責めることはなくなる。
こうやって光一と浮気していることだってしょうがないことにできる。
タクヤをもっともっと責められる。
そう
簡単に離婚だってできるのだ。
しかし
わたしの夢を買って、人生かけて応援してくれていた彼に対して、わたしはどう向き合えば良いのか分からなかった。
合わせる顔なんてなかった。
鳴り響いてた着信がピタリと止み、わたしはホッとするように深いため息をついた。