第8章 strategie⑧
「本当に…本当に良かった。」
「…え?」
本当の気持ちを伝えるとき、俺の声は自分が思ってるよりずっと震えていた。
「ヒロカの芝居。」
「………。」
「俺ドラマで初めてヒロカと芝居した時、衝撃的やった。
ベテランの方と共演させてもらったこと何度もあったけど、その感覚とは別の初めての体験やった。
スタッフもカメラマンも監督も何も見えなくなった。
そこには俺とヒロカだけ。
飲み込まれた。
って思った。」
ヒロカは俺の目をじっと見つめたまま黙って俺の言葉を聞いていた。
「今もそう。
あの時からずっと。
俺はお前に飲み込まれたまま。
ずっと深い海に溺れてる。
でも心地良いんよ。
苦しいけど、気持ちがええ。
これからもずっと溺れていたい。
俺はずっとそう思ってた。」
「…うん。」
蚊の鳴くような小さな声で頷く。
「全て捨てる覚悟で俺は今日ここに来た。
自分の仕事も仲間も。
二人でどっか遠くに逃げ出して、一からスタートして。
知らない国でタクシーの運転手とかで働いたりして。
子どもいっぱいつくって。
休日にどっか遊びに行ったりとかして。
そんなんええなって。」
喋りながら俺は何故か泣いていた。ヒロカも泣いていた。