第1章 strategie
タバコを一本吸い終わり、そろそろ帰ろうか。というところだった。
さっきまで舞台に上がっていた役者たちが、外に出てきたのだ。
どうやら自分が呼んだお客さんやファンに直接挨拶をしているようだ。
俺がやってきた舞台にはそんな習慣がないものだから少し驚いた。
そして瞬時に#中村##ヒロカ#を探した。
「ありがとうございましたー。」
その低くて落ち着きのある声に反応してすぐに分かった。
衣装から私服に着替えているようで、声をきくまで、彼女が#中村##ヒロカ#だということに気づかなかった。
さっきまでの狂気的な女性はいない。
どこにでもいる普通の女性であった。
俺はなんて話かせるかなんて決めていないのに、あの…。と肩に手をかけてしまった。
彼女は最初笑顔で、はい?と返事したあと、俺の顔を見るなり、凍りついたような変な顔になった。
慌てた俺は
「飯行かへん?」
と聞く。
なんやそれ。訳がわからん。
どないしよ。俺今完全に変質者。
「あ…えっと…あ…」
驚く彼女は目を開いたまま口をパクパクさせていた。
やばい引っ込みつかへん。
ヤケクソになって半ば強引に
「ええやろ?」
「あ、はい!」
彼女は少し怯えたようにそう答え、俺は彼女と一緒にタクシーに急いで乗り込んだ。