第8章 strategie⑧
舞台が全て終わり、観客も報道陣もいなくなってからも俺はしばらく動けないでいた。
ぼーっとしながら空っぽになった舞台上を見つめる。
全てを失う覚悟で俺はこの劇場に足を運んだ。
ヒロカを得られるなら何もいらないと腹を括りここに座った。
しかしヒロカもまた覚悟を決めていたのだ。
もともと何も持っていない彼女は旦那と離婚して一人で借金を背負い、それでも表現を辞めようとしなかった。
どんなに敵だらけの観客の中でも彼女の表現は変わらない。演じることと生きることがイコールなのだ。
そんな彼女に俺はなにをしてあげられるのだろうか。
自分の無力さを知りやるせなかった。