第26章 行ってらっしゃいとおかえり
ジャーファルside
シャッ
抱きついて数秒後、素早くセリシアは離れた。
一瞬なんでと思ったけれど、彼女を見て察した。
彼女は王女で、私は政務官で。
そう簡単に抱きつけるような間柄じゃないということだ。
離れられた時少し残念だったけれど、そう思うのはダメなことだった。
「…本当にセリシアなんですよね?」
「はい…幻覚でも夢でもないですよ。」
目の前に、会いたかったセリシアがいるだなんて…どこか信じられなかった。
でも彼女はちゃんと存在してくれている…目の前に。
「どうして…ここに?」
「…は?」
「…え?」
どういうことですかね?
疑問に疑念で返されましたよね。
でもこちらとしてもわけがわからない。
「どうしてって、呼ばれたから来たんですけど…シンドバッドさん、もしかして何も言ってないのですか?」
そういうことか。
ようやく理解ができた。
あの王、私を驚かそうとでもしてわざと私に伝えなかったな…!?
彼女が空に現れても誰も何も騒がなかったのは、私以外はみんな知っていたから。
やられた…!
「まさかジャーファルに伝えないだなんて。」
「ホントですよ…敵かと思うじゃないですか。」
「じゃあ私殺されるとこだったのですね?」
「…貴女ならそう簡単に殺されないでしょうけどね。…それより。」
さっきから違和感のあるそれ。
「敬語は癖ですか?」
「…そっか、そうだ。私、ジャーファルは敬語使ってなかったね。もう忘れちゃってた。」
えへへと苦笑するセリシア。
きっと王女として暮らすうちに、敬語の機会が増えたのだろう。
誰と敬語で誰とタメなのか忘れていてもそんなにおかしくはない。
…でも少し、寂しいものですね。