第9章 澱の沈む夜に
イルミは慣れた手つきでコルクを捻った。
ポン。
密閉されていた空気が抜ける小さな音が、アーチ状の天井へ静かに響く。
半地下に造られたワイン庫は、まるで洞窟のように薄暗く冷えていた。奥にはさらに細い通路が続いており、その先にも別の洞窟が闇の中へ吸い込まれるように連なる。
その壁一面を埋めるワインボトル。それから床へ無造作に並べられた大きな樽。古い石壁には長年の湿気が染み込み、冷たい空気の中へ葡萄と樽木の匂いが重たく漂っている。
その一画でイルミは何事もないようにワインを注いでいた。
トクトク、と一定のリズムで小さな音が響く。
簡易台の上に置かれた二つのグラスへ、暗赤色の液体がゆっくり満たされていく。ランプの灯りを受けたワインが妖艶に色めく。
ニナは落ち着かなかった。
濡れたドレスが肌へ張りついて気持ち悪い。割れた瓶の甘い匂いと湿った地下の空気が混ざり合い頭がぼんやりする。
それに何より、どうしてこんな流れになっているのか分からない。
ぼーっと突っ立っていた自分を奮い立たせた。
「……あの、私、掃除しなくちゃ」
ニナは棚脇へ積まれていた古布へ手を伸ばした。ワイン瓶を包むために置かれていた厚手の布だ。