第9章 澱の沈む夜に
薄明かりの中、イルミの黒い瞳が砕けた瓶とニナを順に見比べる。いつものように表情は薄く、怒っているのか呆れているのかさえ分からない。
「イ、イルミさん……」
気まずさに身をよじり、ニナはゆっくり起き上がろうとした。だが、濡れたドレスが肌に張りつき、濡れた膝が滑って上手く力が入らない。
「動くな」
短く制され、ニナは反射的に身体を止めた。
長く広がるドレスの影に、蝋燭の灯りが鋭利な硝子片を揺らめかせる。どこへ手をつけばいいのかも分からない。
甘く、重く、息苦しいほどのワインの香りに頭の芯がクラクラしてくる。
「 ……そっちは硝子が散らばってる」
上半身がふわりと後ろに持ち上がる。
「っ……!!」
イルミはニナの脇腹へ両手を差し込み、そのまま自分の方へ半ば引きずるように立たせた。
足元がまだ覚束ないまま、ニナの背中はイルミの腕に支えられた。ドレスに張り付いていた細かな硝子片が、パラパラと床へ落ちる。