第3章 色づいて、舞い踊る
「なーに難しい顔してんだよ」
あたしも早速練習してみよ。
駿くんだってきっとすぐに昇格するはず。
「おいこら望月」
「あ、あー、」
「あー、じゃねーし、ぶっ飛んでたぞ」
「頭ん中が踏み台でいっぱいでした」
「踏み台?なに言ってんだ?」
「いえ、こっちの話しです。って、どこ行ってたんですか、探したのに全然見つからないし」
「司令室。緊急招集かかってたんだよ」
あ、そうなんだ、そりゃ見つかんないわ。隣にどかりと腰をおろした太刀川さんの手には缶コーヒーが二本。ほらよ、小さく宙を舞ったそれがあたしの膝に着地した。
それ飲んだら入れよ。模擬戦前の合言葉みたいな太刀川さんの声はいつものことで。だけどどうしてか、今日に限って待てど暮らせどそのお声がかかることがない。隣を見れば、どこか遠くの一点を見つめたままだった。
「太刀川さん」
「ん?」
「風邪でも引きました?」
「なんで」
「なんとなく」
反応はある。
それもそこそこ早い反応が。
顔色も悪くないし、辛そうでもない。
「太刀川さん」
「なに」
「好きな子にでも振られました?」
「いきなり何言ってんの」
「いや、なんとなく?」
「振られてねーし、そんなもんいねーわ」
あれ、おかしいな。
心が傷ついてるんじゃないのか。
じゃあなんだ。
なんでこんな違和感があるんだろ。
「太刀川さん」
「お前はさっきからなんなんだよ、太刀川さん太刀川さんって」
「今日何本いきますか?」
「………あー、」
「あー、じゃねーし」
「真似するな」
あ、今ちょっと緩んだ。
見えないバリアみたいなもので包まれてるような、そんな雰囲気が少しだけ解けた太刀川さんの横顔が柔らかくなって、やっと視線を合わせてくれた表情はもういつもの彼だった。
なんだったんだろ。