第3章 色づいて、舞い踊る
「ぷっ、ははっ、花衣さんおもしれー顔んなってるし。絶対本番に弱いタイプでしょ」
堪えられずに吹き出すのは何も出水だけじゃない。
アイツのことを自分のその目に映すほぼ全員が笑ってやがる。
構ってる余裕なんてないんだろう望月は、ブースの中央、歩みを止めて、鞘に手をかけた。
「いや?そうでもないかもよ?でしょ?太刀川さん」
孤月を抜く寸前。睫毛を伏せて深呼吸するのはアイツのクセだ。
転送されたバムスター。抜刀した孤月と一緒に瞼を持ち上げた望月の表情は一変。
どれだけボコボコにしても、どれだけキツい指導をしても、ただ一つ変わらなかった、
「あぁ、そうだな。腹でも痛かったんだろ、さっきのあの顔は」
俺の好きな闘争心を剥き出しにした、あのいつもの瞳がそこにはあった。
勢いよく踏み込んで、身軽さと俊敏さを上手く利用しながらバムスターを頭上から一刀両断。2号室、記録5秒。
訓練場にそう響いた瞬間、騒つく場内の声をとうの本人は全く気にかける様子はなく、それよりも駆け寄る緑川に羽交い締めという名の抱擁をくらった方がよっぽど驚いてる。
「太刀川」
「はいはい」
「なかなかやるじゃないか、お前の弟子」
「そりゃそうですよ、誰が教えたんだって話しなんで」
「下手すればお前より実力があるかもな」
「それはない、絶対ない、断じてない」
そんなことになったらボーダーなんて辞めてやる。師匠の面目を潰してくれたアイツも道連れにして。
お前らすげーな。同じ訓練生にそう声をかけられてる望月と緑川の周りはすでに人、人、人だらけ。付き合いの苦手だと言ったアイツからすりゃだいぶキツいだろう。
連れ出してやるか。
数十メートル先、引きつった表情で対応に追われる望月が、ふと俺に気づいて視線を寄越す。
仏頂面、無表情、鼻で笑う、冷めた目つき。
アイツを表す限りなく少ないそのどれか、はもう見慣れた。でも今、どれにも当てはまらなかった。というより初めてだ。
どうしようこれ、とばかりに困ったような笑み。
目尻を下げて、口の端を上げて、ふにゃりと笑ったアイツのそれが。
どうしようもなく、少なくとも俺の心の何かを揺さぶる程度には、嬉しくて仕方なかった。