第2章 迷宮のダンジョン
たかだか数週間で、はっきり言ってセンスも才能もへったくれもない望月が、自らくだした決断のせいで潰れたらどうすんだよとヒヤヒヤした。フラストレーションも溜まりに溜まりまくって上手く発散できてないのは明らかだった。
絶対人には見せない内側。それを分かってるから、意地でも吐かせてやろうと躍起になってみたものの、顔色一つ変えやしない。これを強情と言わずして何て言うんだよ。
「花衣ちゃんのことだから、キツくても素でこなしてんでしょ、どうせ」
「あの仏頂面、マジで歪ませたくなる」
「太刀川さんもそこそこ良い性格してんじゃん」
「うるさいよ、お前に言われたくねーし」
ロビーの隅っこ。首だけ変に傾けてピクリとも動かない望月を見つけた。そうしてふと思う。
泣かせるつもりでハッパをかけて、それでも限界なんてとうに超えながらも、唇を噛んで耐えるアイツの泣き顔を、そういや見たことがないなと。
「あらら、よっぽどお疲れなんだね」
「どうやったらこんな体勢で寝れんだよ。首もげんぞ」
「ここまで気持ち良さそうに寝られちゃ起こすの可哀想だな」
「そんな呑気なこと言ってられねーだろ」
「話したかったけど、また今度にするよ。じゃ太刀川さん、あとよろしく」
なんの違和感もなんの罪悪感もなくしれっとそう言って立ち去る迅には、意地でも来週は子守りを押し付けてやりたい。俺の苦労もちょっとは肌で実感しろっての。
「おい、おき……」
肩を掴んで揺すろうとした手は、出そうになった言葉と一緒に引っ込めた。ロビーの壁に掛かった時計を見ると、約束の2時間後よりもまだ15分早い。
仕方ねーな。コイツの隣に座って、半開きな唇の上に乗っかる髪を、指でよけてやったのは無意識。途端に嫌な音が胸の内側からどくんと鳴る。
なんだよ俺。望月相手になに動揺してんだバカか。最近めっきりご無沙汰なおかげで、いよいよ見境いなくなったか?
いやいやいや。自分の理性の弱さと本能の強さは他で発揮するもんだろ、何考えてんだ気持ち悪い。
視界から望月を一切遮断。したところで捉えるものがない視線はアホみたいに宙を舞って落ち着かない。一頻り彷徨ったそれがやっと見つけたのは、モニターに映る名前も知らないような隊員の模擬戦だった。