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かるら怪談

第22章 死者の音声


これは、私がとある人(Aさんとします)から聞いた話です。
Aさんはある日、友人のBさんから妙な相談を持ちかけられたそうです。

Bさんのお兄さんはある難病にかかっていました。その病気は脳が次第に萎縮し、最後には脳死に至ってしまうというものでした。

お兄さんは病前はとても活発な人で、病気がわかった当初も、できるだけ残された時間を有意義に使うんだ、と言って、方々を旅したり、スカイダイビングをしたり、資格試験の勉強をしたりと忙しくしていました。そういう姿を見ていると、本当に病気なのだろうかと訝しく思うくらいだったそうです。

しかし、やはり病魔は着々とお兄さんの体を侵しており、次第に手や足の自由が利かなくなり、呼吸も難しくなっていったのです。

そして、余命があと1年ほどだと医師に宣告された頃には、病院のベッドからほとんど出ることができないくらいになってしまった、ということでした。

それでも、お兄さんは本を読んだり、映画を見たりと、ベッドの上でできる、可能な限りの活動をし続けました。Bさんはそんな兄の姿を見て、感心し、誇りに思ったそうです。

そんな時間も長くは続きませんでした。病気は徐々に、着実に進行し、ついには起き上がることはもちろん、意識がある時間そのものも短くなってしまったのです。そこで、お兄さんは、Bさんにボイスレコーダーを持ってこさせました。そして、意識がある間、日記のように、自分が思ったこと、考えていることなどを吹き込むようになったのです。

今日の日付と時間を言い、その後にその時思ったことを自由に吹き込む。
息も絶え絶えになりながらも、お兄さんは、ほとんど身動きが取れなくなるまで、その音声日記を続けたそうです。

そして、ついに最後の日が来ました。
お兄さんの意識は完全に戻らなくなり、3日が過ぎました。

様々な検査の末、医師はお兄さんを「脳死」と判定したのです。
それは、その年の3月2日のことでした。

長い闘病生活に終止符が打たれた。家族は悲しくもありましたが、どこかほっとしたところもあったそうです。そして、お兄さんの体は、生前の彼の意志により、使える臓器は全て移植用として提供されることになりました。そんな風に最期の最期まで社会に貢献しようとしたところも、兄らしい、そうBさんは思ったそうです。
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