第8章 花緑青をおよぐ金魚
「記憶飛ぶまで飲んですみませんでした」
「おれん家でよかったね、すぐベッド運べたし」
「……まさかと思うけど、研磨くんが運んでくれた、かんじですか」
「そうだよ」
「叩き起こしてくれて良かったのに!」
「叩いてはないけど起こしはしたよ」
「ほんとすみませんマジですみません」
穴があったら入りたい。寧ろ今座ってるここを爆速で掘りまくって埋まりたい。羞恥心やら罪悪感やら色んな感情でぐちゃぐちゃな私のことなんて、つゆ知らずな研磨くんは呑気に携帯弄ってますが。
そもそも昨日あんなこと言われた途端に身の振り方が分からなくなった挙句の奇行だと、分かってるんだろうか。失態の半分は彼にも原因があると思うんですが。
散々散らかしたテーブルの上も、一晩経てば来た時と同じですっきり片付いてる。それを私以外の3人でやってくれたのだと理解してるから、そんな言い訳口が避けても言えないけども。
「ごめんね、ベッドまで占領して」
完全に脱力しきった人間を持ち上げるのは相当キツいはずだ。それだけでも迷惑極まりないのに、寝床を譲ってくれた彼には頭が上がらない。どこで寝たのかは分からないけど、全身凝り固まってるんじゃないか、それともまさかずっと起きてた?
恥ずかしくて目なんて見れなくて、アルコールに逃げた昨日の自分を脳内で全力で殴ってから、これはもう土下座でもしなきゃいけないんじゃないかと背中が冷えたら、脳内じゃなく今この瞬間全力で殴られたような衝撃が鼓膜に響いた。
「なんで花衣だけ1人でベッド使ったと思うの?」
「………………え?」
テーブルを挟んだ僅か数十センチ、真正面。今日も暑くなりそうな予感をさせる晴天と蝉の音がうるさい部屋の中、携帯に落ちていた彼の視線がゆっくりと上がる。
本音を見せない笑みを貼り付け、どこか楽しそうな色も含んでる。からかってるのか真面目に聞いているのかさえ曖昧に隠す様は、昨日と同じ表情をしていた。