第8章 百鬼夜行の、その最中 ※
暖かな指先の感触の後、ナマエが驚いたように目を丸くしてこちらを見た。
「………どっちかというと、映画が、見てえ」
「恵くん、そんなに映画好きだったっけ……?」
咄嗟の言い訳に何か気づいたように、ナマエが首を傾げる。
地上波は、今日はだめだ。
テレビをつければ、新宿の交通規制だの、注意喚起だの、嫌でも耳に入る。
仮にニュースを避けたとしても、緊急速報が割り込んでくる可能性は消えない。
「見たいの、あるの?」
「……いや、とくには」
「そっかぁ…じゃあ、何系がいい?調べるよ」
「待て」
「…?」
ボトムスのポケットに向かいかけていたナマエの動きが止まり、きょとんとした表情で俺を見る。
スマホもだめだ。
どこで、どんな情報が、どのタイミングで通知されるか分かったもんじゃない。
テレビよりも無作為で予測できない分、ずっと厄介だ。
「………」
「め…めぐみくん?」
今日はスマホを見るな、と直接言えば、きっとナマエはそれに従う。
ただ、"何かある"という確かな予感を与えれば、コイツは後日にでも今日のことを調べるだろう。
分からないことを、そのままにしておくような性格じゃない。
今日を無事にやり過ごせても、後日、必ず調べる。
だから言えない。
何もないふりを、今ここで徹底するしかない。
「………前にお前が観たがってたやつでいい」
「…!!」
訓練のとき、これが見たいとボヤいていたのを薄らと思い出した。
確か恋愛もので拒否した覚えがあるが……今は、背に腹はかえられない。
「いいの?」
「ああ」
そう返せば、ナマエは破顔して、ぱたぱたと小走りで棚の方へ向かった。
その背中を見送りながら、ようやく胸の奥に溜めていた息を静かに吐き出す。
——少なくとも、数時間はこれで凌げる。
映画を一、二本見れば夜も更ける。
そうなれば、さっさと寝るように急かして、俺はナマエが起きた時に対処できるよう、見張ればいい。
そんな後先の段取りを頭の中で組み立てながら、
ディスクを抱えて戻ってきたナマエを何事もなかった顔で迎えた。