第5章 オーバーライト ※
日々は淡々と過ぎていく。
津美紀ちゃんが呪われたことが嘘みたいに、世界は何事もなかった顔で回り続けていた。
最近の五条さんはいつにも増して忙しいようで、家に帰らないことが増えた。
高専に"面白い子"が転入したらしい。
その対応や訓練、任務の引率諸々で手が離せないのだという。
……どんな人なんだろう。
胸の奥で、ちくりと小さな感情が動く。
理由は分からないけど、少しだけ気になった。
「ナマエちゃん。次……体育だよ?」
その掛け声で、ようやく現実に引き戻される。
気づけば ぼうっと天井を見上げたまま、しばらく動いていなかった。
声をかけてくれたのは、同じクラスの藤沼さん。
恵くんと同じこの中学に転入してきた時、
津美紀ちゃんと仲が良かったのがきっかけで話すようになって、
今では自然に声をかけてくれる存在になった。
「ごめんね、行こ!」
慌てて体操着を掴み、藤沼さんと並んで廊下を歩く。
窓から差し込む朝の光が、やけに眩しかった。
少し憂鬱な気分の理由は、今日の体育がクラス対抗の球技大会だから。
「体育……いつもなら嬉しそうなのに、今日は暗いね?」
「……うん。球技、苦手なんだよねぇ」
うげ、とわざと肩を落としてみせると、藤沼さんはくすりと笑って「意外」と小さく呟いた。
球技は苦手。
……球に術式を使えば何でもできる気はするけど、それはズルだからやらないと決めている。
「あ。でも今日の対抗クラス……伏黒くんのクラスじゃないかな?」
「え、本当?!」
「うん!ふふ」
ぱっと目を瞬かせて藤沼さんを見ると、彼女はくすくすと笑って頷いた。
恵くんに見られるとなると、下手なことはできない……。ちゃんと"出来る"ところを見せなきゃ、私に失望するかも…。
「うう……頑張ろう…」
「あれ!?また落ち込んじゃった?」
藤沼さんの声に、はっとして顔を上げる。
自分でも気づかないうちに、眉間に力が入っていたらしい。
「だ、大丈夫。ちょっと気合い入れただけ!」
そう言って笑うと、藤沼さんは「ならいいけど」と肩をすくめた。