第79章 竜虎相搏(りゅうこそうはく)
「それ楽そうでいいですね!」
結構な勢いで走っているはずだが、汗ひとつかかず爽やかな顔で九条は言う。その言葉には全く邪気はないが、一切汗をかいていない私としては、誠に申し訳ない気持ちでいっぱいである。
こんな感じで10分ほど山道を駆け上がっただろうか、九条が『そろそろです』と言ったので、私達は一旦立ち止まる。九条が素早く辺りに目を配っている。どうやら式神の気配を探っているようだった。ダリも狐耳をピンと立て、油断なく身構えていた。
時刻は昼下がりをとうに過ぎ、日は大分傾いてきている。周囲は静かな山道だ。両方を林で囲まれ、清涼な空気が満ちている。きっと良いお天気のときにくればハイキングにもってこいだろう。不意に九条が『あっちです』と、歩き出した。その彼を先導にして、私、ダリと続く。
「ミスリン・・・敵の東側に到着しました。そちらも着いてますね?」
多分本来は声に出す必要はないのだろうけど、私に聞かせるために言葉にしてくれているようだ。どうやら、この山道の先に敵がおり、敵を挟んで反対側にはすでに日暮と御九里も到着している状態のようだった。
「敵は廃寺から出て、この先の少し広くなったところにいます。今までは山頂に向けて登っていたようですが、休憩をしているのか、立ち止まっている様子です。そして、何やら話をしています。『山を超えていくか』とか『空を・・・』などと言っているのが聞こえます。
まさか空から逃げる・・・つもりでしょうか?」
九条は馬鹿なことを、みたいな口調で言っているが、私にはひとつ心当たりがあった。
「いや、あり得るよ・・・だって・・・」
そうだ、疱瘡神との戦いのとき、あのシラクモとかいう神宝使いは虫を大量に呼び寄せて空を飛んでみせたのだ。今回も相手は神宝使いだ。未知の方法で空から逃亡する、というのもあり得ない話ではない。
だとしたらまずい。
「ミスリン、敵は上空に逃げる可能性もあるようです」
九条が式神を通じて、日暮にその情報を共有する。そこで何らかの話し合いがあった様子だ。『わかりました』と九条が言うと、私達に目配せをする。どうやら、このまま挟み撃ち作戦を決行する、らしい。
弾かれたように、まず、ダリが走り出した。次いで九条。遅ればせながら私も続く。