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天狐あやかし秘譚

第77章 不知不識(ふちふしき)


可奈子はこの施設のスタッフとしては『心理担当』である。子どもたちの生活の世話をするのはもとより、それぞれの子どもとカウンセリングや心理治療面接を行ってもいた。言葉が話せない麻衣に対しては、言葉を使う通常の『カウンセリング』は無効である。なので、遊びを通した心理治療法である『プレイセラピー』を用いていたのだ。

可奈子が差し出してきたのは、画用紙にぐるぐると赤と黒のクレヨンでたくさんの線が乱雑に描かれている・・・そんな絵だった。
「なんか、ひどい絵だな・・・」
「ええ、トラウマを抱えた子供の絵っていう感じです・・・すごく救いがなくて、見ているだけで苦しくなります」

ん?と緒方が声を上げる。
「竹内さん、この真ん中のこれ・・・なんでしょうか?」
絵の中央を指差す。赤と黒のクレヨンでぐるぐると乱雑に描かれた線。その線を台風に例えると、その丁度、目の部分に当たるところに、黄色と緑の小さな何かが描かれていた。

「さあ・・・なんでしょう」
「全部が全部、赤と黒、ではないというのは良いことなんじゃないか?」
「そう・・・ですね」

可奈子の返事は歯切れが悪かった。
緒方はその部分になにかの希望を感じたようだが、可奈子としてはどうにも禍々しいような印象しか持てなかったからだ。

「ちょっとこの辺が不気味な感じがして・・・」
見れば見るほど、何か背筋が寒くなるような気がして、可奈子はブルッと震えた。緒方は考えすぎだと請け合った。

「まあ、それでも可奈子さんの前で絵を描いた、ということは確かなのでしょう?少しずつ心をひらいているってことだと思いますよ」
まあ、そうなのかも知れない。
可奈子はもう一度絵を眺めてみた。
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