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天狐あやかし秘譚

第72章 死生有命(しせいゆうめい)


「お代は宝生前さんにお願いしたいのです!」
「なんで!?」
「彼氏にお代を出しもらうのが夢なのです!」
「彼氏じゃないです」
「硬いこと言わないでください」

・・・ダメだ・・・話聞かないよ。この人。
諦めてクレジットカードで決済をする。

店の表で座って食べられるところがあるので、向かい合って食べる。土門はいたく満足げだ。
「これ、この間、雑誌で見かけてから食べたかったのです!」
そして、じっとこちらを見ると、
「あげませんよ?」
と。いや、別に物欲しそうな顔してませんし。それにこんな時間にそんなもん食べたら太ってしまう。
「でも、どうしてもと言うなら、ここん所、ちょっとだけあげても良いのです」
そういって、わざわざ自分がかじったところを指差す。
「間接キスなのです♡」

あ・・・頭痛い・・・。
私は額を押さえた。

「いりません」
そう言うと、彼女はなんだか、がっかりしたような顔をした。

そんな会話をしつつも、クレープを食べ終わった。クレープは意外とお腹にたまり、空腹感は大分紛れた。とはいえ、そろそろ本題に入っていただかないと・・・、そう思いかけた時、

「宝生前さん、顔そのままですよ?
 後ろの方、立ち上がったら、追いますよ」

と土門が声を潜めた。

え?と思う間もなく土門がササッと荷物をまとめ、立ち上がったので、私も慌ててそれに従った。

土門の視線の先には、20代後半くらい、白のパフスリーブのブラウスに、薄茶のロングスカートを履いたOL然とした女性が歩いていた。

「追うのです」
そう言うと、土門が私の腕にしがみつくように腕を絡めてきた。
「な!?」
「し!静かに!ここは表参道ヒルズですよ?男女で歩く以上、カップルのふりをするのが一番怪しまれないのです!」

そう言って腕を絡め、胸を押し付けてくる。明らかに顔がにやけているので、この行為が『怪しまれないため』では絶対ない、というのはよく分かる。

だいたい、怪異が『こいつらカップルじゃねーのかよ、怪しいな』とか思うわけ無いでしょうに・・・。
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